日本神話の中でも特に人気のある神、大国主命。 多くの試練を乗り越え、国を治める偉大な神へと成長した彼の生涯は、まるで波乱万丈な物語のようです。 大国主命の人生を3つの時代に分けてご紹介します。
第一章:苦難の青年期と、因幡の白兎
大国主命は、兄たちである八十神(やそがみ)からいじめられる日々を送っていました。 兄弟の中で最も末っ子だった彼は、荷物持ちをさせられるなど、辛い扱いを受けていました。 そんなある日、兄たちが因幡の国にいる美しい姫、八上姫(やかみひめ)に求婚しに行くことになります。大国主命も同行させられますが、やはり荷物持ち役でした。
この旅の途中で、大国主命は怪我をした一匹の白兎に出会います。 兄たちは白兎に意地悪な嘘を教えますが、大国主命は真実の治療法を教え、白兎を助けます。 この出来事に心を打たれた白兎は、大国主命こそが八上姫と結ばれるだろうと予言します。 白兎の言葉通り、八上姫は大国主命の優しさに惹かれ、彼と結ばれることを選びました。
しかし、このことが兄たちの怒りを買い、大国主命は二度も命を狙われることになります。 一度目は焼いた岩を転がされ、二度目は木の股に挟まれて殺されかけますが、彼の母である刺国若比売(さしくにわかひめ)の助けにより、何度も生き返りました。
第二章:試練を乗り越え、真の力を手に入れる
兄たちの迫害から逃れるため、大国主命は木の国(現在の和歌山県)にいる大屋毘古神(おおやびこのかみ)のもとへ身を寄せます。 しかし、そこにも兄たちの手が及び、彼はついに根の堅州国(ねのかたすくに)へと逃れます。 そこは、荒々しい神、須佐之男命(すさのおのみこと)が治める国でした。
須佐之男命は、大国主命に数々の難題を突きつけます。 ヘビやムカデがうごめく部屋に閉じ込められたり、大きな野原で火を放たれたり。 しかし、須佐之男命の娘である須勢理毘売命(すせりびめのみこと)の助けもあり、彼はすべての試練を乗り越えます。
この試練を通して、大国主命は知恵と勇気を身につけ、さらに須佐之男命から「生大刀」「生弓矢」という宝物と、「大国主命」(それまでは大穴牟遅神)名を授けられました。 須佐之男命に認められた彼は、根の堅州国から脱出し、故郷へと戻りました。
第三章:国造りと、国譲り
故郷に戻った大国主命は、見違えるほど成長した姿で兄たちを打ち破り、葦原中国(あしはらのなかつくに)を治める国造りの神となります。 少彦名命(すくなびこなのみこと)をはじめとする多くの神々と協力し、人々のために国を豊かにし、医療や温泉の知識を広めました。 出雲大社の境内にある「因佐の浜」は、国造り神話の舞台とも言われています。
そして、彼の国造りが完成した頃、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が遣わした使者から、この国を天つ神に譲るよう求められます。 これが「国譲り」神話です。 大国主命は、天つ神に国を譲る代わりに、壮大な宮殿を建てることを条件としました。 こうして建てられたのが、出雲大社です。
出雲大社に祀られる大国主命は、国造りの神としてだけでなく、縁結びの神としても知られています。 これは、彼が多くの試練を乗り越え、多くの神々と縁を結んで国を築き上げたことに由来していると言われています。
大国主命の物語は、苦難を乗り越え、優しさと勇気を持ち続けた先に、偉大な成果が待っていることを教えてくれます。
大国主命の妻と子どもたち
大国主命はたくさんの妻がいました。古事記には180柱の子神がいたと記されています。主な妻たちと子供たちを紹介します。
須勢理毘売命(すせりびめのみこと)
- 関係:須佐之男命(すさのおのみこと)の娘であり、大国主命の正妻です。根の堅州国での試練をともに乗り越えた、大国主命の人生において最も重要な存在です。
- 子供:須勢理毘売命との間に子供が生まれたという記述は明確にはありません。
八上比売(やかみひめ)
- 関係:大国主命が「因幡の白兎」のエピソードで出会った、因幡の国の美しい姫です。大国主命の最初の妻とされています。
- 子供:木俣神(きまたのかみ)が生まれました。しかし、八上比売は正妻である須勢理毘売命の嫉妬を恐れ、生まれた子を木の股に挟んで因幡に帰ったとされています。
沼河比売(ぬなかわひめ)
- 関係:高志国(こしのくに、現在の新潟県糸魚川市周辺)に住む女神です。大国主命が求婚の歌を詠んで結ばれました。
- 子供:建御名方神(たけみなかたのかみ)が生まれました。彼は国譲りの際に、建御雷神(たけみかづちのかみ)と力比べをした神として知られています。
神屋楯比売命(かむやたてひめのみこと)
- 関係:高皇産霊神(たかみむすひのかみ)の子孫とされる女神です。
- 子供:事代主神(ことしろぬしのかみ)が生まれました。彼は国譲りの際に、大国主命の代わりに天つ神に国を譲ることを承諾した重要な神です。また、恵比寿神と同一視されることが多いです。
多紀理毘売命(たぎりびめのみこと)
- 関係:宗像三女神の一柱で、天照大御神(あまてらすおおみかみ)と須佐之男命の誓約(うけい)によって生まれた女神です。
- 子供:阿遅鉏高日子根神(あじすきたかひこねのかみ)と、その妹である下照比売命(したてるひめのみこと)が生まれました。阿遅鉏高日子根神は、国譲りの使者として来た天若日子(あめわかひこ)にそっくりで、葬儀の場で騒動を起こした神としても知られています。
大国主命は、これらの女神たちとの間に多くの子供をもうけることで、神々の系譜を広げ、地上の国の基礎を築き上げていったと言えるでしょう。
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